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| 混世魔王撃退之巻 |
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懐かしい華果山に帰って来た悟空だったが、斛斗雲で低空飛行している際何やら様子が違う事に気付いた。
鳥獣の宝庫であるはずが、それらの気配を全くと言っていい程感じないのだ。
「者ども、今帰ったぞォ!」
大きな声で叫びながら斛斗雲ごと瀑布に突っ込み水簾洞に戻る悟空。
「ビ、美猴王様。
ようやくお帰り頂きましたか。
未だか未だか‥‥と首を長くしてお待ちしておりました」
留守を任せておいた山猿が棒切れを構え、震えて現れた。
「外の様子が変だが、オレ様の留守中何かあったのか?」
「えっええ‥‥そのォ‥‥。
じ、実は‥ 美猴王様が旅に出られてから暫くして、混世魔王(こんせいまおう)という
それはそれは凶暴な妖魔にこの水簾洞が襲撃されまして‥‥」
続いて岩影に身を隠(かく)していた長老猿が現れると、それを合図に岩山猿達も 次々彼方此方の岩影から出て来た。
「家財は奪われ、女子供はさらわれ、終いに火は付けられるで‥‥」
「大王様、恐かったよォ」
「ウウェ〜ッ! アタイのかぁチャン死んじゃったァ」
「クッ、ククゥッ‥‥ヌヌヌヌヌヌ‥‥!」
頭に血が上(のぼ)り怒りの頂点に達した悟空は、もんどりうつと斛斗雲でまたまた滝と突っ切る。
長老猿が慌てて洞府の外に飛び出すと、悟空はもう空高く舞い上がっていた。
「美猴王、待つんじゃ。
独りでは危険じゃ」
「長老。
その心配には及ばぬ。
オレ様には七拾弐の術がある。
この斛斗雲だってその一つ」
「そうか。
それではくれぐれも気を付けてのォ。
妖魔は北の方角から襲って来‥‥ 」
長老猿の忠告を最後まで聞き終えたか否か‥‥
もとより水簾洞一帯は熟知している悟空だったので、必然的に北へ飛んでいった。 |
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剪り文字注釈: イクバクカニ カカザンへキセイシタソンゴクウ サッソウト スイレンドウニモドルヤイナヤ アレタサンジョウニ ガクゼントナル |
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低空飛行で岩山を隅々まで捜していると、水簾洞からほぼ真反対に位置する辺りに大きな洞穴を発見した。
悟空は斛斗雲から飛び下りて、勇んで洞穴に近付いた。
そこは洞穴の周辺だけ異様に草花も木も全く生えておらず、殺風景でおどろおどろしい岩山の崖の下だった。
「華果山一帯で初めて来たが、まさかこんな所に洞穴があったとはなぁ‥‥」
入口付近には大きな石柱が立ち、其処に坎源山水臓洞(かんげんざんすいぞうどう)と彫り込みがあった。
小っ端の妖魔が石柱に凭(もた)れて、居眠りをしていた。
悟空がそいつを摘まみ上げ、そして大声で怒鳴り始めた。
「やいッ! 混世魔王ゥ。 出て来やがれッ!
水簾洞の美猴王が、テメェの小汚い面(つら)をぶっ飛ばしに来たぜ!」
すると、穴の奥から地鳴りのような重い空気の固まりが悟空めがけてぶつかった。
悟空が身構えて一瞬怯む。小っ端の妖魔がこりゃたいへんだと、慌てふためく。
「オオーゥ! 何だァ、ヘッポ仔ザルじゃねェか‥‥!」
「やいッ! オレ様の留守中に、よくも水簾洞を引っ掻き回してくれたな。
礼はタップリ返してやるから、覚悟しろィ」
「『礼はタップリ返してやる‥‥』だとォ? フゥハハハ‥‥ ほざけ。
お前ごときチビザルに何が出来る。 ワシを誰だと思っておる。
天神も凍り付く混世魔王様だぞ!」
「ぅるせェッ!
混世だか温泉だか知らねェが、力じゃ負けねェぜ」
「フンッ!返り打ちにしてくれるわ」 |
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剪り文字注釈: ゴクウ コンセイマオウニ ネジロヲアラサレ イカリクルウ イザ コンセイマオウトタイケツ |
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悟空と混世魔王の激(はげ)しい戦いが始まった。
混世魔王の手には三刀剣が握られ、それを悟空めがけ容赦なく振りかざして来た。
混世魔王は思いのほか手強(ごわ)い相手だった。
悟空は脇の毛を抜き息を吹き掛ける。
すると宙に舞った毛は小猿に早変り、手数(てかず)をふやした。
地囃数(ちさつすう)の法の一つ、身外身(しんげしん)の術である。
小猿達は、魔王の甲冑(かっちゅう)の内側に忍び込み毛をむしったり、身体をくすぐったりと、
悪戯(いたずら)の限りを尽くした。
「ワハ、ワハハ。 やめろくすぐったい、こりゃたまらん」
魔王は脚をばたつかせ、笑い転げていた。
洞穴の奥から小っ端の妖魔達が小走りに、者質の女子供猿の首に刀をあてて連れ出てくる。
「そうだでかしたゾ、野郎共! 孫悟空の前でそやつらの首を刎(は)ねてやれ」
「ちッ!」
「こいつらを助けてほしくば降伏しろ!」
魔王は頻(しき)りに降伏を促す。
仕方なく悟空は小猿達を元の毛に戻し、身体にくっつけた。
そして悔しがりながら魔王を睨み返す。
「ワハハハ‥‥ これで手出し出来まい。
ん?どうした。 大きい口叩いたわりには大した事ぁねェなぁ。 ワハハハハ‥‥」
「ハハハハハハ‥‥‥」
魔王は自身の毛を一本抜くと、大きく息を吸い込み孫悟空めがけて放した。
それが飛びながら小さな針から太く黒光りした一本の鋼矢になって悟空に迫る。
胴衣を引き裂かれながらも間一髪で鋼矢を躱(かわ)す悟空だったが、
魔王の鋼矢の攻撃は止まず、その後幾度も繰り返し襲ってくる。
必死に攻撃をかわす悟空。
「クソォ! いつまでもこうしちゃられねェ。
子猿達だけでも何とかしなければ‥‥
しかし、このままじゃ皆殺(やら)れる‥‥
クッソォ〜どうすれば‥‥」 |
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剪り文字注釈: ゴクウ コンセイマオウ トモドモイッシンイッタイノコウボウ ゴクウ シンゲシンノジュツデ スカサズハンゲキ |
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悟空は、印(いん)を結びながら大きく息を吸い込む。
すると全身の毛先が金色(こんじき)に輝き、見る見る身体が大きくなった。
顔は一段と強ばり、身体からは闘気が溢れ出ていた。
「混世魔王! テメェだけはもう絶対許さねェ」
「なッ、何だ!」
悟空の様相に思わず混世魔王が怯(ひる)んだ。
と、次の瞬間。
悟空は魔王の懐にもぐり脚で一撃を放つ。
岩山の様な魔王の巨大な身体が蹴られた反動で石柱へ仰け反る様に倒れ込み、握りしめていた三刀剣がこぼれ落ちた。
悟空は自身の身長よりも長く、とてつもなく重いその三刀剣を軽々拾い上げると、旋風のごとく魔王めがけて振りかざした。
「混世魔王! 最後ダァ!」
魔王はかわす間もなく、頭からまっぷたつに打(ぶ)った切られてしまった。
「ハァ〜、フゥ〜。 ざまァ見ろ!」
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剪り文字注釈: ゴクウ サントウケンヲウバイトリ コンシンノチカラコメ コンセイマオウニフリカザス |
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一息ついて元の身長に戻った悟空は、 三刀剣を引きずりながら睨みを利かせ、後に残った雑魚(ざこ)に迫る。
捲き割りのごとくまっぷたつの主の屍(しかばね)を目の当たりにした小っ端の妖魔達は、最早勝ち目はないと悟り、
者質を開放すると、武器を放り出して散り散りに逃げ失せた。
妖魔の警めから開放された猿達が一斉に悟空の処に寄り添う。
そして悟空を囲む様に泣いたり飛び跳ねたり笑ったりと助かった歓びを分かち合った。
悟空はこの猿達を少しだけ愛おしく思えた。
悟空は洞穴に魔王の死骸を放り込み、子猿達に枯れ枝を拾い集めるよう命じた。
集まった枯れ枝を女猿達が束ねて洞穴の入口に積み重ねた。
「二度と混世魔王みたいな妖魔が住み着かぬ様、この洞穴を焼き払う」
火が放たれると枯れ枝は瞬く間に燃え上がり、洞穴は炎火の渦と化した。
悟空は女子供猿達を一塊(ひとかたまり)に束ねて印を結ぶ。
そして一陣の狂風となって水簾洞へ帰って行った。 |
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剪り文字注釈: コンセイマオウノナキガラモロトモ スイゾウドウヲヤキハライ ゴクウ ドウシトトモニイチジンノキョウフウトナリ カカザンヘカエル |
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