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| 仙者訪問乃旅之巻 |
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毎日、何不自由ない生活をおくっていたが、ある日石猴は疑問を抱いた。
「オレも、爺さんみたいにいつか老いが来て、やがては死んじまうんだろうな‥‥」
それを聞いていた長老猿は、
「この世に三者だけ、死を逃れる事の出来る方がおられると聴く」
「そんな者が居るのかァ?」
「そう、まずは神様と仏様じゃ。そして仙人‥‥」
「仙人?」
石猴は仙人を訪ね、不老不死の術の教えを請うため、旅立つ事にした。
早速水簾洞の猿達に筏(いかだ)を作らせると、それに乗って海に出た。 |
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剪り文字注釈: イクバクノトシツキガケイカ イシザル フロウチョウジュノ ヒジュツヲモトメ イカダニノリオオウナバラへ |
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粗末な筏だったが、持ち前の器量で荒れ狂う大海原を幾多(いくた)もくぐり抜ける。
やがて南贍部州 (なんぜんぶしゅう)という大陸に辿(たど)り着いた。
ここは人間の住まう所。
漁師らしき人影が多く視られたので歩み寄ると石猴の風情に恐怖し、皆一目散に家々へ逃げ帰ってしまう始末。
仙人の事など聴く余地は毛頭なかった。
仕方がないので内陸にまで脚(あし)を延ばす事に。
歩み進むにつれ、いつしか大きな街に来ていた。
そこは露店商や盛り場など活気に溢れ、それらを目当てに沢山の人々が往来していた。
そんな中、石猴の姿を視ても不思議と驚く者はいなかった。
ここならと、早速仙人の事を訪ね歩いてみるが、期待とは裏腹。
それどころか、
「言葉を話すサル‥‥
おぉ〜い皆ぁ! ここに珍獣がいるぜ」
と、いった始末。
そうやって幾つかの街や國を訪ね歩いているうち、とうとう大陸の反対側まで出てしまった。
「ちッ! 仕方ねェなァ‥‥」 |
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剪り文字注釈: ココハカカザンヨリハルカ ナンゼンブシュウ イシザルアラナミノリコエテ トアルギョソンニタドリツク |
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剪り文字注釈: ヒジュツモトメ ナンゼンブシュウアチコチタズネルガ ミカイ二 ギョセンヲゴウダツ イシザル サイドオオウナバラへクリダスコトニ |
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浜で網の手入れをしている漁師を脅(おど)かし服と漁船を奪(うば)うと、
また海を渡り、西牛賀州(さいごがしゅう)という新たな大陸に辿り着いた。
そこは南贍部州の様に人間が居るわけでもなく静まり帰っていた。
にも関わらず石猴は仙人を捜しまわるが、人が見つからなければ当然仙人の居所を聴くに到らず。
只々闇雲に捜し続ける内、次第に山奥へ歩み入る。
何の宛てもないまま歩き続ける事幾許(いくばく)。
辺り一帯霧靄(きりもや)で何も見えず。
足下を探る様に恐る恐る進んでいると、突然視界が開けて、目前に一つの洞穴を見つけた。
洞穴入口付近の岩肌にこう彫られている。
『霊台方寸山 斜月三星洞(れいだいほうすんざん しゃげつさんせいどう)』
そこは正しく仙人の住まう場所。
石猴が近付くと、棍棒(こんぼう)を持った童仙が睨(にら)みをきかせ出て来た。
「貴様ァ、何者だ。 此処で何をしている?」
石猴は一瞬身構えたが、ここで手荒な行動に出て、これまでの苦労が水泡と化すのは口惜しいと
踏み止まり、膝まついて童仙に目的を述べた。
『どうも妖しい奴』
と、内心そう思いながらも童仙は石猴を洞穴の中に入れ、やがて洞府の奥間に通した。
洞府の主(あるじ)の号(な)は須菩提祖師(すぼだいそし)という。
「お師匠さまァ、菩提様ッ!
外にこの様な者が訪ね参って居りました」
「ホウ。 果て。
此処らでは視ぬ面相じゃが、お主は何処の者じゃ?」
「オレ、いや‥‥えぇワタシは旭の遥か向こうの華果山から来ました」
「何じゃと!
フッ、ホッホッホッ‥‥ 嘘(うそ)を申すではない。
そのような遠方から、お前ごときがここまで来れるわけがなかろうて」
「嘘じゃねぇって!
海を筏で渡り、険しい山々を越え、何年も、何年もかけて来たんだ」
「ホホォゥ。 まァよかろう。
で、名は? 名は何と申すのか」
「美猴王」
「カッ、ハッハッハッ‥‥。
何とまぁ人を繰った名じゃわい」
須菩提祖師はこんな石猴の事が妙に気に入ってしまい、早速弟子に取り立てる事にした。
「弟子とするに中(あた)り、お前に新たな号を授けよう。
猴に因み、“獣偏に古と月” 獣偏を取り古と月に‥‥。
んん‥‥、それぞれ老と陰を示し善くない。
“獣偏に孫”獣偏を取り子と系‥‥。男児と女児を示し末代まで繁栄。
姓は孫とし‥‥、十二の文字、広・大・智・慧・真・如・性・海・穎・悟・円・覚。
既に穎までは兄弟子に授けた。
お前は悟の字。
悟空という名前はどうじゃ?」
「有難うございます。
孫悟空ゥかぁ、気に入りました」
号と深紅の胴衣(どうぎ)を貰(もら)った石猴はその日より兄弟子達と共に、
毎日水まき、掃除、礼儀作法、習字と、修行に勤(いそ)しんだ。 |
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剪り文字注釈: ナガキニワタリ サガシタカイアリ イシザル ヒガン スボダイソシニ メドウリカナウ |
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長い月日が経った。
祖師が有難い説法を唱(とな)えていると、退屈極まりない悟空は、よそ見をしたり貧乏ゆすりをしていた。
祖師は悟空を叱った。
「コレッ悟空ッ! その落ちつきの無さは何とする」
「ハイ、ワタシはもう充分修行を積んで参りました。」
「そちは此処(ここ)に来てどれ程になる?」
「方寸山の桃を7回頂きました。 ですからそろそろ‥‥」
「そうか7年になるか。 で悟空、伜(そち)はいったい何を学びたいのだ?」
「不老不死の術‥‥ですよ」
「莫迦(ばか)を申せ。 不老不死の術はとても俄(にわか)で修得出来るものではない!」
「あぁそォですかぁ! 苦労して七年も修行してきたってぇのに‥‥。 止め止め。 もう、辞めた!」
「それが行を積んできた者の言い種(ぐさ)ではあるまい」
祖師が高座から駆け降りると、手元の錫(しゃく)で悟空の右片を3回叩き警(いまし)めた。
そして説法を中断したまま居間に入ったきリ出てこなかった。
説法を授ける事が出来なくなった兄弟子達は悟空に怒りをぶつけたが、
何やら他事を考えている様子で全く耳に入らずといった具合。
悟空は祖師の行動が謎掛(なぞか)けだと思い、
勝手に 『丑の三つ刻に裏手から訪ねてこい』という意味に解釈したのだった。
その夜、悟空は祖師の部屋へ忍び訪ねた。
「サルめ。 誰の許しを得て是に参った?」
「謎掛け通り、やって来ました。」
「何ィ、謎掛けとな‥‥ フッ、ホッホッホッ‥‥ さすがは、妖猴じゃわ 殆(ほとほと)呆れたわい」
祖師が起き上がり、
「悟空よ。 お前ならさほど難しい事でもなかろう。 よかろう指南致そう。」
「有難うございます」
「但し、この行はこれまでとは比較にならぬ程厳しいものぞ」
「覚悟は出来ております」
「ウム。 よいか、厄(わざわい)を避ける方法は二つ。
一つは天堽数(てんこうすう)といい、三十六般の変化がある。
二つ目は地囃数(ちさつすう)といい、七十二般の変化がある。
どちらを学びたいか」
「そりゃもう、多い方がいいに決まってますって。
“ちさつ”の変化をお願いします」
「では講釈致そう」
それからというもの、悟空は毎夜祖師の寝室を隠密に訪ね、祖師は東の空が白くなるまで悟空に秘術を説法した。
こうして祖師の信用をものにして、悟空は修行に励み、瞬(またた)く間に地囃の術全てを修得した。
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剪り文字注釈: ゴクウ マイヨウシミツノコク シヨリコウシャクヲタマワル マタタクマニ ヒチジュウニハンノヘンゲ チサツスウヲジョウジュ |
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ある日、洞府内で不祥事が起きた。
悟空は日頃祖師から、
『行とは、心中に納め人に曝(さら)すものならず』と言われていたのにもかかわらず、
有頂天になって、兄弟子達に地囃の術の数々を見せびらかしていたのだ。
祖師は、
「この愚か者。
隠密に説いた地囃の術を他人に見せびらかすとは言語道断。
眼にした兄弟子達は当然同じく修得したくなる事が何故把握出来ぬ。
悟空ッ! ワシの弟子であった事は無論、今後一切ワシの名を語らぬよう。 よいなッ!
破門じゃ、即刻出ていけ」
悟空は反論する事もままならず、仕方なく学び舎である斜月三星洞を後にして水簾洞へ還って行った。
往(い)き、海を渡り山を越えて数年かかった道程を、復(かえ)りは一瞬にして
十万八千里を飛ぶ斛斗雲(きんとうん)のおかげで、すぐに着いた。
「ちょろいもんだぜ!」
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剪り文字注釈: ゴクウ アニデシタチニ ヒジュツヲミセビラカセタツミニテ レイダイホウスンザン シャゲツサンセイドウヨリハモン カカザンへキセイ |
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