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□■ 絵 心 の ま ま に □■





第一章:ボクの履歴

第四節:興味本位な絵心


中学に上がると部活動といういろいろな活動拠点があり、そのなかには

美術部もありましたが、ボクはあえて科学部に入部しました。理由の一つに、

継続して絵画教室へ通っていた事が挙げられます。

キチンとしたプロの画家に学んでいたので、学校とはいえ、

あいまいな部活動に入る必要性を感じなかったのです。

(当時のボクにそこまでの先を詠む力があったかどうか定かでないが、

平たく言えば美術部に入るのが照れくさくて格好悪い事だと思ったのでしょう)

中学の美術の授業でも相変わらず水彩が主な画材ではありましたが、

改めて透明水彩と不透明水彩の違いを理論的に説明されました。

でも既に苦い(素晴らしくもある)経験のもとにその事を知っていたボクには、

退屈な授業でしかありませんでした。ただ、新鮮な用法も幾つかあり、それらは、

今に至ってもボクにとって大変有効かつ重要な技法として役に立っています。


以下にそれらを紹介しましょう。
<>内はそれに必要な道具です。

  
溝引き<ガラス棒と溝引き定規>

illustration / Kenny.V
   片方が丸く球状になったガラスの棒と溝の引かれた竹定規を使って、

   筆で直線や輪郭を描く技法。

   面相筆で輪郭を囲み平筆で同幅の直線等を描くのに大変有効。


  水張り<木製パネルとホッチキス又はステンシルタッカー>

    
illustration / Kenny.V
   画用紙やケント紙等に筆等で水(無色透明で綺麗な水)をタップリと塗り、

   木製のパネルに上下(専門用語では天地という)左右を均等に合わせながら

   水を塗った面をパネルに合わせて、紙のはみ出した部分をパネル枠に

   ホッチキスやステンシルタッカー(工業用打ち付け針)、

   水溶性粘着テープで張り付け、紙の歪みを防ぐ用法。

   画用紙やケント紙をそのまま使い水彩で描くと、紙がブヨブヨになって

   画面上の絵の具が歪に流れたり、乾いても紙が歪んだままになったりした事、

   誰しも経験あると思うんだが。

   水張りはパネル等平たんな板に張り付けてある事で、

   水でふやけた紙が乾燥して収縮する際に、四方向へ均等に引っ張られる為に

   歪みが起きない画期的な方法。


美術の時間では勿論透明水彩や不透明水彩を使った授業が転回されるのですが、

他にもう少し専門的な事も行ないます。

『デッサン』

これによって大概の人が絵心を少なからず削ぎ落とされると思うんですが、

このデッサンも重要と言えばそれなりに大変重要な事なのです。

というのも人が幼児期から最初に描くモノは、似てる似てないに関わらず、

必ずといってよい程具象画なのだから。

似せるとか何とかの問題ではなくその形を目で正確に捉えて描く為には、

やはり基礎デッサンというモノが必要になってきます。

デッサンとは物の形や質感を観る。

これは光りと影を見据える事に他ならない訳ですが、

これが結構やっかいな代物で、ボクの様に将来画家やイラストレータ−とか

を志望している人はまだしも、大概の人が挫折する原因の第一号なのです。

現にボクらみたいなその道を志望する人ですらめげるのだから、無理もない。

こうして今執筆していても、今だにデッサンの事はう雑多い事。

要するに、物の形(型)を上手く捉える事が出来ればよいのですが、

デッサンの詳しいお話はあとの節でするとして、話を戻しましょう。

嫌気の多いデッサンはともかく、中学の美術の時間は小学校のそれと違って

当然複雑で多種多様な事を行ないました。

この中学の美術の授業での経験が今のボクの礎なのかもしれません。

(勿論小学校での図画工作も重要だったのですが、

基本という部分に措いてはやはり中学なのでしょう)陶芸・

創作絵画(小学生の頃から好きだった前節で書いたアレ)・ポスター・レタリング

(活字の図案模写)・木版画(小学校では切った!貼った!の紙版画でしたが)・

リトグラフ(平版:現在の印刷の主流であるオフセットもこの仲間で、

リトグラフは平らな石版を使う。水と油の反撥力を利用して刷る工法)・

七宝焼・アニメーション用のセル画制作等々、今想い返しても

随分多くを経験出来たと思います。そんな中で、ある経験をきっかけに

ボクはそれまで大層楽しみに通っていた絵画教室を辞める事になります。

(別に油彩が嫌いになってた訳ではなく、正確に云えば自然消滅)






   illustration / Kenny.V
中学2年の半ばになった頃、ボクはアニメの雑誌の広告に掲載されている

アニメーター(セル画マン)の仕事(今でもある某アニメーション学院のアレ)に

すごく関心を持っていました。(仕事に関心があったのではなく、

アニメーターという資格、肩書きに憧れたのかもしれない)

その関心度は中学3年で壮大で爆発的なものになっていました。

中学3年生と言えば高校受験の歳で、ボクにも例外なくその波は押し寄せてきました。

その頃某アニメプロダクションの受講生だったボクは、

他のクラスメート達が受験に向けて毎日勉強しているのに対し、

プロダクションから送られてくるセル画(送られてくるセル画は線画のみの状態)

に彩色ばかりしていました。もともと勉強があまり好きではなかったし、

その頃には“絵描き”で飯はなかなか食べていけない事位(一般的にそう

志している者に対しよく言われている事)常識的に認識していて、“それなら”と、

当時は本気で“将来はアニメーターになる”そう思っていました。

結果的に現在のボクにつながる足掛かりとなった訳ですが、やはり

多少は勉強しておくべきと、そののちに小さな後悔となって自身を責めました。

(受験の為だけの勉強するのなら、しない方がマシ?いやいやそれでもやはり

した方がいいに決まってる。勿論受験の為にではなく自分の為に)

でも当時のボクにはもうアニメの事しか頭になかったのでしょう。

見事なまでに学校の教科書は見ませんでしたし、

親父からもらった部屋の本棚にも教科書等は一冊も立てられていなかったですから。

したがって、ボクの教科書には開いて出来た折り跡がなく新品の様でした。

(これ、自慢にはならないですね)

アニメーションに使うセル画は指紋がつきやすくて、これを防ぐ為に

アニメーター(セル画マン)は木綿の白く柔らかい手袋をして彩色をセルに施します。

ボクにはこの手袋が大変特別な格好いい物に見えました。

それにセル画専用の彩色筆や・タップ(セル画や動画用紙を固定する為の金属製金具で、

2穴用と3穴用の物がある)・セル画用の絵の具・彩色ムラ検出用のシート

(半ツヤの黒い紙製で、彩色して乾燥させたセル画の下に敷き、塗りムラを検出する。

絵の具の厚みがなかったり濃度が薄かったりすると、必ずシートの黒が

セル画を通して透けて見えるので、ムラが検出でき修正する時に役立つ)・乾燥棚等、

アニメーターに必要不可欠な一式がボクにはたまらなく格好良く見えたのでした。

まず試験から始まる訳ですが、この彩色試験がなかなかの難関で、

一重に色塗りと言えどもムラなく綺麗に塗るのは大変な事でした。

絵の具をタップリ(筆先から絵の具が落ちるか落ちないか位)付けた筆をセル面に立てて、

指定された輪郭線内に指定の色を塗るのではなくて置くようにしていく。

たったこれだけの事なのに何度もやり直しになりました。

タップリ絵の具を置いていくので時々輪郭から絵の具がはみ出してしまう事があります。

そんな時は慌てないで乾燥棚に一度セルを置き、絵の具を半乾きの状態にします。

彩色筆の枝の先を斜めにカットし、その先でセルに傷がつかない様はみ出た絵の具を

丁寧に削ります。ムラがある場合も同様、あせらずにまず乾燥させてから、

検出シートを用いて何処にどの位どの様なムラがあるのか調べます。

検出したらそこにまた丁寧に色を足していく訳です。時にはマシーン汚れ

(セル画の輪郭線は、大半が動画用紙の鉛筆の線を機械に架けてセルに転写する)

と言って輪郭線がボロボロになってたり、滲んでたりします。

マシーン汚れはヴェンジンでふやかして拭き取ったり、

塗りムラ同様筆の枝先で丁寧に削ります。

こうして彩色の試験をクリアすると、いよいよ本番の彩色が待っています。

本番の作業も試験同様に行なうのですが、一枚一枚仕上げるごとにギャラがつきます。

当時、セル画一枚彩色すると100円でした。

初めのうちは、月に50枚位のセル画を手掛けました。

慣れてくると段々消化枚数も増え、月に200枚〜250枚位の数になりました。

ですから、月に20,000円から25,000円位にはなります。

当時中学生だったボクには大金で、なかなか結構なおこずかいとなった訳です。

おかげでと言うか、案の定勉強はおろそかになり、ただでさえ分からないモノが

余計に分からなくなり、その結果益々勉強が嫌いになっていきました。

それでも(と言うより、もうそうなると)アニメそのものへの関心はついえる事がなく、

益々盛んに彩色していったのです。

ところがある日思ったのです。

“お金は入るけれど、これって人(脚本家や著作者)が描いたモノに

ただ色を塗っているだけではないか?”と。

それまでは単に色を塗るだけで格好良くって満足していたのですが、

急に物足りなさを感じる様になっていました。

かつて水彩や油彩に憧れ感激したあの絵心が蘇ったとでも言うのでしょうか。

そう思う様になると、もうアニメーター(セル画マン)に対する関心度は

冷めていく一方です。それがボクにも遅がけの受験勉強への意欲

(意欲と言うよりそろそろ本気で勉強しないと、

何処へも行けなくなる状態だった)につながりました。

他のクラスメートが勉強していた時、ボクはいらぬ事にうつつを抜かしていた為、

受験はやはりいい選択肢はありませんでした。

それでもなんとか2,3校の内の1校を受験し、なんとか合格にこじつけました。

かくして、ボクの爆発的なまでのアニメーターへの関心は、

燻りもなく完全に消えてなくなったのです。


                                  2002年7月執筆


※ CGを多様するなど、現在のアニメーターの制作環境は当時と比べ、大きく異なって来ています。


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